扉の先は深い森でした
道はまっすぐのびていましたが ウサギの姿は見あたりません
とにかく進もうと 少年は歩きだしました
しばらくいくと 開けた場所に出ました
どこからか音楽が聞こえるので あたりを見回すと
白いクロスのかかった長いテーブルに たくさんの椅子と ティーセット
真ん中には大きなケーキがあります
テーブルの右側にはロップイヤーのウサギが
左側はシルクハットをかぶった正装の男がそれぞれお茶を飲んでいました
少年はウサギの行方を聞こうと近づきました
「ちょっと…」
「誰だ?」
「お前も祝いにきたのか?」
「祝う? 今日は何か特別な日なの?」
「別に」
「何にもねぇから祝ってんだよ」
「そんなのおかしいよ」
「何故だ 何もなくても無事過ごせる日がめでたいのは おかしいことじゃないだろ」
「それは… じゃあ 明日も祝うの?」
『あぁ』
「明後日も その次も?」
『あぁ』
二人は淡々と目の前のお茶をのみながら返事をします
「それじゃ 本当のお祝いの日の楽しみがなくなっちゃうよ」
「なんだ そんなことか」
「毎日が楽しみってことだろ 何が不満なんだよ?」
「なんか… なんか違うと思う」
「フン…」
「変なやつだな」
ちょっとひっかかりながら 少年は本来の目的を思い出しました
「僕 ウサギを探してるんだ どこに行ったか知らない?」
「オレのことか?」
「そいつのことか?」
ほぼ同時に 同じ答えが返ってきました
たしかに 右側にいるのはウサギでしたが 少年が探しているウサギではありません
「違うよ 君じゃなくて」
「なら知らねぇな」
「客なんて もう 誰もこないからな」
また淡々とティーカップに口をつけます その姿は少年には淋しそうに見えました
「そっか… ありがとう 僕はいくよ」
「なんだ もう行っちまうのか」
「やっぱり僕は ちゃんとしたお祝いの日に ちゃんと祝ってあげたいから」
「…そうか」
「まぁ 無理強いするつもりもねぇしな」
別れを告げて少年は先を急ぎました
ふと 二人を思い出して 心に痛みを感じながら



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