「はじめまして
 貴方が 猪狩さん?」
「え?」


それは なんの変哲もない普通の一日で
突然のことだった

ここはアメリカ
でも かけられた言葉は 久しぶりに聞く
母国の言語


「よかった! やっと会えた」


そう言って無邪気に笑った
その笑顔に何か違和感を感じる
年はいくつか下だろう


「僕を知ってるんですか…?」
「何言ってるの?
 日本でもココでも有名人なのに おかしな人だな」


また笑う
職柄か 確かに自分を知っていてもおかしくないなと
思い直した


「それもそうだね
 でも やっとって言うのは?」
「探してたんだ やっぱりココは広いね」
「探す?
 僕に何か用があるの?」
「そう
 ものすごく大事な話なんだ」


妙になれなれしいのは この国の環境からか
それとも もともとなのか
やっぱり 何か違和感が残る


「でも 僕は君を知らないよ?
 …君 もしかして…
 日本で甲子園に出てなかった?」
「憶えててくれたの?
 アンドロメダ 優勝は持っていかれちゃったけどね
 おかげで散々だったんだから」
「そうか あのときの…」


すこしだけ 胸の支えがとれた
何のなく見たことがあると思ったのは そのせいだったのか


「僕は神高 神高龍
 よろしくね 進さん?」
「あ うん よろしく」


差し出された手を取って
それでも 何かおかしな感じがして


「神高…くん?
 大事な話って 何かな?」
「龍でいいよ そう呼んでくれない?」
「え… うん
 じゃあ… 龍…くん」
「…ま いいか
 ちょっと古い話になるんだけど
 憶えてるかな
 ドラフ島って 行ったことあるでしょ?」
「ドラフ島… 憶えてるよ
 でも あまりいい思い出もないけど…?」
「憶えてるなら話は早いや!
 また 手伝ってもらいたいんだ」


たくらむ笑顔 そんな気がした


「手伝う?」
「僕の母さん スポーツ医学の研究しててね
 …いや 実験かな」
「実験…」
「セントラルタワーの計画はまだ死んでないよ
 あ ちょっと違うかな
 …また 再開したんだ
 手伝ってよ」


そうか
違和感の正体は これか



「なっ 何言ってるんだ!
 あんな計画… 手伝えるわけない…!!
 本気で言ってるの?!」
「もちろん 本気だよ
 成功にはちょっと手間がかかってね」


少しずつ こっちに近づいてくる
もう 逃げる道もふさがれていた


「説得して欲しい人がいるんだ
 強制でもかまわないけど…
 どっちにしろ 進にしか出来ないんだ」
「…っ」


目の色が変わったみたいに
さっきまでの穏やかさはない
あるのは 不適な笑み

体に力が入らない



「友沢くん
 知ってるでしょ?
 欲しいんだ 彼」
「友沢…?!」
「連れてきてくれない?
 簡単でしょ 
 だって 君たち…」
「そんなの出来るわけ…!」
「そう
 じゃあ 仕方ないね」


その言葉は 諦めたようではなかった
それより 楽しそうだった


「強制で つれてきてもらおうかな」
「なっ…!」
「ドラフ島だけじゃなくて
 まだ手は回ってたんだよね」
「…?」
「まだ通じるのかな」


なにかの催眠のように もう押しのける力もなくて
耳元で息がかかるのを感じた


「ね 手伝ってよ」

 野球マスク

「あ…」



頭が重い
最後に見たのは 怪しい笑み






 手伝って くれるよね



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