「守くん?」
「え…
 あぁ 神童さん」
「偶然だね グラブの新調かい?」
「いえ たまには息抜きにとも思って出てきたけど
 ダメですね 行くところみんなこんなスポーツ店ばかりで」
「はは 職業病だね」
「神童さんは…」
「僕も同じようなものだよ
 あ あと アカデミーで使うものの発注とかね」
「それは出木さんの仕事じゃ?」
「抜け出す口実かな」
「…学長も大変ですね」
「楽しいけどね
 …皆を見てると また投げたいと思ってしまって…」
「え? 何か言いました?」
「いや 何も
 そうだ 時間あるかい?」
「まぁ… 今日一日オフですから」
「コーヒーでもどうだい?
 最近の球界事情も聞きたいしね」
「そうですね アカデミーのことも気になるし
 …あと」
「ん?」
「き…聞いてもらいたいことが…」
「?」







「どうぞ」
「あ どうも」
「で 進くんがどうかした?」
「っ!!」
「ははっ 図星みたいだね」
「けほっ いや…その…」
「チームの調子はいいみたいだね
 連勝じゃないか カイザース」
「…話代えましたね」
「え? 代えて欲しいのかと思って」
「…やっぱり 貴方はやりにくい人だ」
「そうかな?」
「…」
「そんなに深刻な話なのかな?」
「深刻といえば…まぁ」
「彼はまだ向こうに?」
「帰るとは聞きましたけど 詳しくは…
 むしろ 帰ってきてもらっても困るというか」
「どうしてだい?
 君ならもっと喜ぶと思ってたけど」
「貴方は僕のことをどう見てるんですか」
「え? いいお兄さんだと…」
「…そういうことにしておきます」
「それで 困る原因は何?」
「憶えてますか?
 友沢亮…」
「憶えてるも何も 君のチームじゃないか
 入団して早々にベンチ入りしたって言う…
 テレビでもよく見てるよ」
「それが…ですね その…」
「彼と進くんに何の関係が… え…」
「…まぁ そういうこと…っていうか…」


「・・・・・・どういうことだい?」
「…わかったんじゃないんですか」
「いや 確信がないというか…見当違いというか…
 それより 二人が知り合いだったことに驚いたよ」
「考えてみれば古い付き合いなんですよね
 神童さん 昔 少年野球のコーチか何かしてませんでしたか?」
「あ…あぁ そうだけど
 たしか君もいたよね」
「神童さんのチームとは何回か試合してたと思いますから」
「じゃ 友沢君も?」
「年も下だし 子供のころのことなんて忘れて当たり前ですからね
 …でも そういえばいたんですよ 印象に残ってる泣き虫が」
「泣き虫?」
「ボクに三振取られて大泣きしてたんです
 それを進がなだめてたような…」
「それが友沢くん?」
「この間確かめたので間違いないですよ」
「(誰に確かめたんだろう…)
 でも それが何か関係あるのかい?」
「ただ付き合いの長さを言っただけです もう腐れ縁か何かですよ
 その後ボクは中学にあがったから詳しくは知りませんが
 …そういえばあかつきの文化祭にも来てた…」
「ま…守くん 落ち着いて…」
「このままでいいと思いますか?!
 確かに引き金引いて自爆したのはボクだけど!」
「守くん! 声が!
 わかったから とにかく何があったのか話してくれないか?」
「よりにもよって 相手があいつなんて…」
「相手?」



「あの…
 す…進に 恋…人が…」
「そうか それで君は妬いてるのかな
 …あれ?」
「…」
「あ…相手…?」
「…ボクは 間違ってたんですかね…?」
 


「本心を言うと
 進がアメリカに行ったときは ちょっと安心してたんです」
「安心って?」
「たぶん 神童さんがいたからです
 進も信頼してるし ボクよりも全然しっかりしてるし
 任せられる…とでもいうのかな」
「そんな風に思われてたなんて 光栄だな」
「…そういうところがやりにくいんです 貴方は」
「そうかい?
 ホントは行かせたくなかったんだと思ってたよ アメリカ」
「そりゃ思いましたよ
 今だから言いますけど
 進が貴方を追っていったようで 余計嫌でした」
「ははっ やっぱりね」
「…だから ボクはてっきり…」
「…そうだね 進くんは優しいから
 僕もちょっと頼ってたところがあったからね」
「え」
「前に言ったろう? 甘えてるのは僕のほうだったんだよ
 進くんの優しさにね」
「……」
「どうしたんだい? そんな怖い顔して?」
「なんでもないです」

「それで 進くんは?」
「え?」
「進くんは変わりない?」
「変わりないって… もう半年以上会ってませんけど」
「連絡は取ってるだろう?
 試合の結果とか 声のトーンとか いつもの彼かい?」
「まぁ… いつもの進でしたけど」
「あとは直接会えるといいんだけどね
 彼の笑顔が変わりなければ
 それが進くんが幸せでいる証拠だろう?」
「幸せ?」
「自分の大切な人が幸せであることを願うのは当然のことじゃないか」
「…」
「その大切な人が選んだ道で幸せでいてくれたら…
 今はそれでいいんじゃないかな」
「…」
「君がきっかけなら 進くんの幸せを手伝っただけだよ
 自分を責めるより そう思ったほうが楽じゃないかい?」
「…すぐには無理です」
「君ならすぐだよ 誰より進くんを想ってるのは
 君じゃないか」
「神童さんはどうなんです?」
「僕?
 僕も彼の幸せを願ってるよ
 君に負けないくらいね」(ニコ
「(…ム)
 ボクのほうが上ですけどね」
「ははっ 今はね」
「やっぱりやりにくい…」
「何か言った?」
「別に
 とにかく! 今日はありがとうございました」
「いえいえ お役に立てたかわからないけど
 頑張ってね お兄さん」
「…神童さんも サボりはほどほどに」
「そうするよ」






「…進の幸せ…か」







「・・・・・・やっぱり納得いかない!!
 よりにもよって なんで奴なんだ進?!
 幸せだ何だのの前に俺は許さないからな・・・!!
 ちょうどいい
 明日の練習で思い知らせてやろう!」

 








その決意も あまり長くはもたなかったけど



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