蝉の声もだいぶ静かになった
日はまだ高い
でも
俺たちの夏は 終わった


「こんなとこで何やってんだ」
「二宮…どうかした?」
「四条が集合かけたぜ
 お前はまたサボりか?」
「はは サボりは酷いな」

グラウンドからは死角になっているその木の根元に
隠れるように座っている姿を見つけて
思わず声をかけていた
…サボりは俺のほうだ
あの試合に負けてからやる気が失せてしまった

「集合 嘘でしょ」
「…」
「四条は今日委員会で欠席だよ」
「なんだ いねぇのはそういうわけか」
「嘘はもっと上手くつくものだよ」

そう言って笑う声がなんだか苦しそうだ

「…お前 具合でも悪いのか?」
「大丈夫だよ ちょっと暑かったからね」

嘘は上手くつけって言ったのはお前だろ
今日は普段に比べて暑くなんかない
雲が多くなってきた 雨でも降るんだろうか





「さて 休憩終わり…っと
 君もサボりは良くないよ 二宮」

辛そうに笑う
まだふらついてるじゃないか

「お前…どっか悪いならもう上がれよ」
「大丈夫だよ」
「顔色悪いぞ」
「大丈夫」
「でも…」
「大丈夫だってば!!」

初めて見た
声を荒げて怒るところ
息があがってる 
何がお前をそこまでさせるんだ…
はっとした顔をしてから 急にうつむいてしまった

「…ごめん
 でも 本当になんでもないんだ …気にしないで」
「…」

言えない 聞けない
今の自分には その資格なんか無い
練習にすら身の入らない
こんな俺なんか

「…二宮」

顔をあげたその目は 俺じゃなくて
何か違うものを追っていた気がする

「なん…」
「君は もう勝てないと思ってるの?
 一ノ瀬キャプテンがいないウチは もう勝てないって」
「!」

図星というわけではない でも 当たってる
何かが胸に突き刺さる音がした

「それとも あの負けが自分の所為だと思ってるの?」
「それは…」
「負けたからやる気がなくなっちゃった?
 最近サボりだしたのはそのせい?」
「ちが…!」
「なら 本気でやってよ…!」

向けられた目には 涙がこぼれそうで
それでも真剣な瞳に 俺は何も言えなかった



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